『カンブリア紀』『ジュラ紀』『白亜紀』など、聞いたことだけはあるこれらの単語。
約46億年前に地球が誕生してから、そこで生まれた生物がそれぞれの地質時代を経ながらどんな盛衰をたどったのかを『子ども向けに』説明したのが絵本『せいめいのれきし』です。
対象年齢は7歳からですが、子どもにとってはややむずかしい漢字が多い印象。逆に捉えると、大人が生物・科学を復習するにはとても参考になります。
日ごろあまり生物や科学に興味のない人はぜひ覗いてみてください。日常の見え方に新たな視点が増えるかもしれません。
『せいめいのれきし』はこんな絵本
大きさ約30cm四方の黄色い表紙が印象的な『せいめいのれきし』。宇宙がはじまってから「あなた」にたどり着くまでの地球の歴史と生物の遷移が見開き1ページごとに記されています。
見開きページの右ページは「ぶたい(舞台)」となっており、その地質学的時代を象徴する生物や地球の様子がイラストで描かれています。天文学者や地質学者などのナレーターが「ぶたい」を紹介する文章が載っているのが左ページです。
全80ページほどで、半分はイラストなので大人なら30分程度で完読できます。
ここで、『せいめいのれきし』を大きく3つに分けます。
2. 古生代 〜 中生代 〜 新生代
3. 人間の時代
宇宙や生命の歴史は難解すぎて、私をはじめ、多くの人が投げ出しているテーマですが、それを子ども向けの「絵本」にしているところが『せいめいのれきし』がもつ要約力の高さです。宇宙が生まれてから人間が活動をはじめるまでの1と2の期間の表現にこそ、その真髄があります。
3で人間が登場してからは、絵本ならではの「あなた」に当てはまるお話、という汎用性の高い内容となっています。最後まで読むと「宇宙がはじまって地球が生まれ、最終的に私につながった…」と実は自分が壮大な物語の主人公だったことに感動を覚えながら幕を閉じるのです。
初版は1回目の東京オリンピックが開催された1964年に発行されました。作者は『ちいさいおうち』も生み出したバージニア・リー・バートン。アメリカ マサチューセッツ州生まれの女性で、イラストもすべて彼女が描いています。
訳は現「東京子ども図書館」の前身である「かつら文庫」を開いた石井桃子です。
『せいめいのれきし』の要約
ここでは「1. 宇宙が生まれ、地球ができた初期のころ」と「2. 古生代 〜 中生代 〜 新生代」を解説も交えて紹介します。
それにあたり『137億年の物語(クリストファー・ロイド著)』を参考文献としています。こちらも合わせて一家に一冊納めてみてはいかがでしょう。
「3. 人間の時代」で主役はわたし感をじんわり味わいたい方は『せいめいのれきし』原本を実際に手にとって読んでみてください。
宇宙が生まれ、地球ができた初期のころ
地球が誕生してからのおよそ40億年間が「先カンブリア時代」です。そこからさらに「冥王代」「太古代(始生代)」「原生代」と分けられます。
地球は天の川銀河のなかの太陽系を構成する8つの惑星のうちの1つです。地球は分速1,760kmというものすごい速度で太陽の周囲を回っていました。
2006年には冥王星が惑星から“準”惑星へと区変された背景を鑑みると、2015年に改訂版が刊行される前のバージョンの『せいめいのれきし』では、海王星の隣の余白に冥王星が描かれていたのではと推測されます。
(1)冥王代 :6億年間
今から46億年前に地球が誕生してから40億年前までの6億年間を冥王代と指します。この時代に地球が生まれました。
この頃の地球の表面はマグマ(溶岩)に覆われ、非常に高温だったと考えられています。長すぎる年月とともに冷却され、液状だった溶岩は固まり、火成岩と呼ばれる状態になりました。
(2)太古代(始生代):15億年間
地球内部からの熱に地殻がつき動かされ、高低差のある陸地が生じました。その過程で火成岩の性質は変化し、変成岩が登場します。
この太古代に真正細菌や古細菌といった原始生命体が現れはじめました。
(3)原生代 :19億年間
人間を含め、この世界に住む動植物の多くは多細胞生物ですが、その化石がようやく発見されるようになったのは原生代の地層からです。
光合成を行い酸素を放出するシアノバクテリア(藍藻・真正細菌)により、大気には二酸化炭素よりも酸素が増えました。それにより大気圏上空にオゾン層が発生。地球上の生物は強烈な紫外線から保護されるようになります。
原始バクテリアが放つガス粒子(硫化ジメチル)のおかげで雲ができ、雨が降ることで川や海といった水の流れができます。押し流された砂利や粘土が時を経て、堆積岩と呼ばれる岩がつくられました。
古生代 〜 中生代 〜 新生代
ここからは登場人物を抽出してお送りします。
(4)カンブリア紀:5400万年間
登場人物:サンゴ類|藻類|ウミユリ類|腕足類|三葉虫
地球が海に覆われたこの時代に生物分類上の「門」の多様性が生じました(カンブリア爆発)。
例)ヒト → 動物界・脊椎動物門・哺乳綱・サル目・ヒト科・ヒト属・サピエンス種
(哺乳「類」ではないんですよ)
とりわけ、無脊椎動物の中で最も進化した三葉虫は古生代の約1億年間の間を生き抜いた海生生物です。
(5)オルドビス紀:4100万年間
登場人物:三葉虫|貝類|ヒトデ類|頭足類|魚類|地衣類|コケ類
オルドビス紀の主役は現在のイカやタコも属す頭足類です。陸上ではコケ植物が育ちはじめました。
(6)シルル紀:2400万年間
登場人物:コケ類|シダ類|種子植物|ウミサソリ類|魚類
海の水が蒸発し、地面が隆起します。舞台は海から陸へも広がりました。地上では陸上植物が姿を見せ始めた一方、海中では多くの魚類が生まれ、脊椎動物が一般的となりました。
節足動物門に属するウミサソリは体長2メートルを越すものもおり、毒針をもった危険生物でした。
(7)デボン紀:6000万年間
登場人物:シダ類|肺魚類|ダンクルオステウス(原始的な魚類)
水辺ではさまざまなタイプの魚類が登場しています。肺をもった魚(肺魚)も現れ、水たまりから水たまりへ移動できるようになりました。
陸上にも脊椎動物が進出したのはデボン紀の終わりごろからです。
(8)石炭紀:6000万年間
登場人物:昆虫類|両生類|裸子植物|巨木群(鱗木・盧木 ほか)
現代の石炭のもととなった植物が大森林を形成していたのが石炭紀です。なかでも、レピドデンドロン(鱗木)は直径2メートル、高さ30メートル以上の巨木です。
水中で生まれ、陸上で育つ両生類が現れました。
(9)ペルム紀:4700万年間
登場人物:裸子植物|爬虫類(ディメトロドン ほか)|両生類
山が隆起し、乾いた気候に順応するように、硬い種をもつ裸子植物が生まれました。また、両生類に代わり、産卵時に水辺を必要としない爬虫類が繁栄します。
ペルム紀の終わり頃には、活発な火山活動により太陽光が遮られ、酷寒の世界となりました。それにより当時の生物の96%は絶滅したと言われています(ペルム紀の大量絶滅)。
(10)三畳紀:5000万年間
(11)ジュラ紀:5600万年間
登場人物:爬虫類(恐竜)|原始哺乳類
中生代の三畳紀にはいり、気候がふたたび温暖になると、いよいよ恐竜が登場しはじめます。
二足歩行のものもいれば、四足歩行するもの、草食・肉食・雑食性とさまざまで、これまでに500種以上の恐竜の化石が発見されています。
ジュラ紀には空を飛ぶ恐竜(翼竜)もいました。
(12)白亜紀:7900万年間
登場人物:爬虫類(恐竜)|被子植物
山はますます高くなり、浅い海は陸になりました。二酸化炭素濃度の上昇により気候が変化し、大西洋が生まれたことで、恐竜たちの居住スペースは細分化・狭小化しました。
1億8000万年にわたり地球を支配した恐竜ですが、白亜紀の最後の日、直径10キロメートルの小惑星が現在のメキシコ、ユカタン半島を直撃。隕石が落ちなかった地域でも恐竜は死に絶えました。
恐竜が絶滅した6550万年前以降は、二酸化炭素が減少したことで地球の気温は大きく下がります。
(13)古第三紀:4200万年間
登場人物:鳥類|哺乳類|被子植物
ここから新生代、古第三紀へと突入します。地球はふたたび温かくなり、熱帯樹で覆われました。
恐竜が生きていた時代の脇役だった哺乳類が勢力的になってくるのが新生代です。哺乳類も鳥類も恒温動物であるため、気候の変化に適応し生きのびることができました。ウマやネコ、クジラの祖先も見られます。
(14)新第三紀:2000万年間
登場人物:鳥類|哺乳類|被子植物
草食動物は木の葉よりも草を食べるものが増えました。恐竜と共存していた頃は小型だった哺乳類ですが、徐々に様々な形とサイズのものが出現していきます。
北極側の氷河が北半球を覆いはじめます。
(15)第四紀:258万年間
登場人物:氷河時代のウマ・ライオン・ラクダ|ケサイ|ケナガマンモス
この時代は氷河時代と呼ばれます。氷河は少なくとも極地から南へ30回以上は押し寄せては後退する、を繰り返しました。
すでに人間は登場していましたが、まだ目立つ存在ではありません。しかし、狩猟採集民となった人間により1000年かけて大型動物は狩り尽くされ、絶滅しました。
ここから、人間の時代がはじまります。
『せいめいのれきし』まとめ
宇宙や地球、生命の歴史のすべてを知ろうとすると途方もない労力と時間がかかります。
ですが『せいめいのれきし』は全80ページのうちの50ページ、実際はその半分の25ページで要所をまとめています。この思い切りの良さを発揮したバージニア・リー・バートンには脱帽の思いです。
この記事で語っていない「3. 人間の時代」こそが、『せいめいのれきし』がただの地球史で終わらずに、すべてはあなたにつながる物語だということを示しているので、ぜひ最後まで読了していただきたいです。
子どもはこれから出会う世界の手がかりとして、大人は生物・科学を復習するきっかけとして『せいめいのれきし』を手にとってみてはいかがでしょう。
タイトル | せいめいのれきし(改訂版) 地球上にせいめいがうまれたとき からいままでのおはなし |
著者 | バージニア・リー・バートン |
訳 | 石井桃子 |
監修 | 真鍋 真 |
出版社 | 岩波書店 |
発行日 | 1964年12月15日 初版 2015年7月22日 改訂版 |